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雨の音
突然のスコールだった。 雷も近い。 建ったばかりのはずの部屋が、 風に煽られて小さく揺れている。 彼女が遊びに来ていた。 少しくらい怖がるかなと思って横顔を見る。
全然、 なにも考えてなさそうな顔をしていた。
さっき、 急に豪雨の音が大きくなったときも。 「人類。滅亡するんかな、今日」 とか言っていた。
テレビではワールドカップをやっている。
テレビの音に耳を傾ける
歓声が雨音をかき消そうとしていた。 「もっと考えることあるだろ」 「滅亡するのに?」 「しないし」 「え、すればいいのに、滅亡」 なんの話だ。 聞いていたら。
「ランチ。スタバのバナナケーキと、 チャイラテを飲んだ最強女だから。 予知してたとしても、運よすぎる」
と言った。 意味がわからなかった。
もし今日、 本当に人類が滅亡するとしても。 こいつよりは考えてることマシかな、 と思った。 俺、まだそんなに。 人類滅亡は望んでないわ。 チャイラテが少しうらやましかった。
雨と風の揺れがおさまってきた。 最初に思ったのは。 あ、 またあのハミングが聴こえる。 だった。
🎵 右斜め前あたりからする
ここ最近は四六時中、 同じメロディーが聴こえていて、 そろそろ幻聴だと疑っていたところだった。 さっき、 台風みたいな雨が強くなったとき。 周りの家々から聞こえていた テレビの音も大きくなった。 雨音に負けないように。 みんな少しだけ 音量を上げたのかもしれない。 そのせいで。 ずっと聴こえていたハミングも 聞こえなくなった。 だから。 ああ、 隣のテレビだったんだな。 そう思った。 解決したはずだった。
また始まっている。
いつものハミング。 いつもの調子。 単調なリズム。 少し陽気なメロディー。
さっきまで風に揺れる家に 緊張していた身体が。 気づけばそのリズムに乗っている。 気持ちも、 いつの間にか飲まれていた。
ふーふーふん ふーふーふん ふーふふーふたーりらー
たーりら たーりら たーりらりらりらりらー
ちょっと陽気な音に。 幻聴かもだけど。 気づけば何も心配してなかった。
らーりらーりらーりらーりらー
「人類、 もしかして滅亡するのかな」 そんな言葉がポロっと出た。 「しないし」 横では彼氏がワールドカップを 大音量で流して、 この豪雨をやり過ごそうとしている。
ちょっとビビってる彼氏に。 いま私の頭の中だけで 流れているかもしれないハミングを 聞かせてあげたくなった。
そういえば。 この前、 深夜にハミングが聞こえ出したとき。 これは医者に言わないと。 と思って。 なぜかスマホで録音した。 私が歌うハミングのデータが、 スマホにあるなとは思ったけど。
「ねぇ、聞いて」 「これ、私の幻聴」
って聞かせるのは ヤバい女すぎて。 やめた。 まだ、 女つくってるのか、わたしは。
「人類滅亡したらいいのに」
いまなら。 横にけっこう好きな男がいて。 ちょっと陽気で一定のハーモニーを 届けてくれる合唱団みたいなのがいて。 しかも、 さっき。 スタバのバナナケーキに チャイラテまで飲んでいた。
私はご機嫌なのだよ。
そう思いながら。 雨が落ち着いてきて、 家の揺れがおさまっていくのを感じていた。 今日は人類滅亡しなさそうだな。
ふーふふん ふーふふん ふーふふふふふー